東京大学アニメーション研究会 ―SSA―

『高速増殖炉ボ悶呪』制作レポート

この文章は、新入生用の自主制作ガイドとして会報に載せられたものです。(一部手直ししてあります)
99年冬の研連上映会で流された『高速増殖炉ボ悶呪』を例にとり、自主制作アニメの作り方を説明します。


シナリオ・設定

シナリオはアイデアを皆で出し合って、もしくはアイデアを一人で絞り出して、そのアイデアをもとに書き上げます。
思いつきがそのままシナリオになることもあります。
アイデアを出すのは複数でもシナリオを書くのは一人です。
そして、その次にキャラクターや小物の設定を作ります。
アニメの制作は複数の人間が長期間にわたって行うため、シナリオ・設定をしっかり作る必要があります。

冬の研連上映会にむけた活動は9月の秋休みから始まります。
しかし、秋休み中には直後に消えてしまった企画が上がっただけで、話がまとまらず無駄に終わってしまいました。
こうした無駄がこの後もひたすら続いたため後で地獄を見るようになるとは、制作班の誰もがうすうす勘づいていたのでした。
「もんじゅ」の企画は10月頃のある日、部室の雑談の中で出され、シナリオはその直後、後に監督をつとめる鈴木氏(99生)が振動波動論の授業中になんとなく書きました。
鈴木氏はシナリオが採用になれば、ちゃんとしたシナリオを後で書くつもりだったようなのですが、この後の混乱の中、それは実行されませんでした。
ここでは「もんじゅ」ではなく別の作品に決定され「もんじゅ」は立ち消えとなりました。消滅した「もんじゅ」はなぜ復活したのかっ!それには恐ろしい秘密がっ!

絵コンテ

考えたシナリオに沿って絵コンテを切ります。
SSAで使用している絵コンテ用紙は二種類ありますが、いずれもカットの大まかな絵・それに関する指示(動画の動かし方やカメラワークなど)・音響関係や台詞・カットのコマ数(尺数といいます)の欄があります。
絵コンテは以降の作業の土台となりますので、詳細かつわかりやすく書かなければなりません。

自主制作班の鈴木氏の家に、同じく自主制作班の先輩である堤氏(97生)から電話がかかってきたのは冬の上映会3週間前のことでした。
その恐るべき内容は、制作が進行中であった作品が、絵コンテが上がらず凍結になりそうであるという事実と、主力メンバーの、堤氏及び絵コンテを描いていた有村氏(98生)を除いて「もんじゅ」を作れという指令でした。
幸い冬の上映会は年を越えた1月に決まっており、冬休みが丸ごと使えたのですが…。次の日、監督になった鈴木氏は岡田氏(98生)に絵コンテを急かされて描き上げました。
ちなみに鈴木氏はまだ絵コンテの描き方をほとんど知りませんでした。
2時間足らずで描き上げられたそれは尺数、効果音の指定がなく、とても絵コンテと呼べる物ではなかったのですが制作は有無を言わせず進行するのでした。

原画

絵コンテに基づいて、各カットの原画を各人に発注します。(より本格的な作品では、ここでレイアウトを起こすこともあります。)
普通のアニメでは、動きのキーとなる原画(例:バットの振り始めと振り終わり)を先に描き、後から動画でつないでいく方式をとっています。
原画を複数人に発注した場合、当然絵柄・技術力に差が出てくるので、それらを統一するために作画監督をつけることもあります。
また背景を別に発注することもあります。

動画

日本のアニメの動画は、上述したように原画と原画の間をつなぐ作業です。これを中割と呼びます。
たとえば人が走る絵の場合、片足が着地したところを原画として、その間を二〜三枚の動画で中割りし、合計四〜五枚で一歩の走りを表現します。
かなりの数の絵を描かなければならないので、商業アニメではスタジオ単位で発注したりしますが、自主制作の場合、分業化するほど人手が多いわけではないのでたいてい原画も動画も同一人物が担当します。
また、彩色する場合は色の境目となる線を硬質の色鉛筆で描きます。

SSAの自主制作班は人数も少ないため原画・動画の区別はなく、作画作業となります。
設定画を上げる手間と、各人の絵を統一する作業を省くため、自主制作班はキャラクターごとに作画を分担するという作戦にでました。
しかしながら、絵コンテがいい加減であったため各人の作画枚数も分からず、個人の裁量に任せるという方針が打ち出されたのでした。

仕上げ

要するに彩色作業です。いわゆるセルアニメでは、カーボンを使って紙に描かれた線画をセルにトレースし、裏から専用の塗料を塗ったり、表からエアブラシを吹き付けたりします。
これに対し、現在完全に主流となり、研連でもほとんど(全て?)が採用しているデジタルアニメの場合、線画をスキャナでパソコンに取り込み、専用ソフトを使って彩色していきます。

年が明けた1月2日、自主制作班は有村氏の下宿に泊まり込みの作業を始めました。
実は彼はこの作品の制作には参加していなかったのですが、家が駒場に近く、帰省しなかったため下宿が自主制作の作業場に選ばれてしまったのでした。ひどい話です。
肝心の仕上げ作業は、大久保氏が進行役になり進められました。
監督の鈴木氏は彩色までするつもりであったようなのですが、彩色どころかクリンナップ(絵を清書すること)もロクにできる状況ではなく、鉛筆書きの絵をスキャナで取り込んで次の工程に進むのでした。ひどい話です。

編集

仕上げが終わった絵を絵コンテに基づいてまとめていきます。
フィルム撮影の場合、フィルムそのものを専用の器具を使って地道に切り貼りし、デジタルの場合は、取り込んだ絵のデータ(たいていビットマップ方式)を編集ソフト(Anime Studio II)を使って切り貼りします。
事前に取り込んでおいたBGMやS.E.(サウンドエフェクト)場合によってはアフレコした台詞も一緒に加えていきます。
さらにパン・ズームなどのカメラワークや、透過光・オーヴァーラップといった特殊処理もこのソフトで行います。

編集作業は大久保氏(99生)が中心になって行いました。編集作業もパソコンが調子悪く、難航しました。
鈴木氏は作画作業を終えたのですが、いらんことに編集作業に口出しするようになりました。
しかし、鈴木氏はパソコンについては素人であるため役に立たず、しまいには「何で編集終わらないの!」とわめきだす始末です。最低ですね。

完成

フィルムの場合、ここで音を入れ、上映用の別フィルムにプリントして完成です。
デジタルの場合は編集を終えたファイルをavi形式にコンパイルし、それをビデオテープに落として完成となります。

自分の無力を悟った鈴木氏はこのころにはなにもせずただいるだけとなり、作業は大久保氏が続けていました。
そしてついに、時間が足りないことは分かっていたのですが、録音した声を入れただけで効果音がほとんど入らないまま上映会前日になってしまいました。
本来ならこの日に試写に提出しなければならないのですが、終わることはできず、岡田氏に出品する旨だけ伝えてもらいました。迷惑ですね。
そして、田中(理)氏(97生)の自宅に日も暮れてからおしかけビデオにおとしてもらいました。迷惑ですね。
このようにして完成した作品は当日、上映会会場に持ち込まれ上映されました。

以上が自主制作の流れです。
自主制作は今回もギリギリのスケジュールで行われました。
我々はこれでいいのか、いやいいはずがない。 ということで自主制作班はスケジュール管理の徹底を図り(昨年も同じことが書いてありました) そのための具体的な作戦を企画・実行していきます。